賃借人に賃貸物件から退去して欲しい!

時々、不動産に関するご相談で、賃貸人として賃貸物件を他人に貸しているが、とある事情で賃貸できなくなり、契約期間中でも賃借人に退去してもらうことはできないか、という相談を受けることがあります。

ただ、不動産の賃借人にも、その不動産に住み続ける権利はあるわけですから、そう簡単に賃貸人の都合だけで賃借人に退去を求めることはできません。

ここでは、賃貸人が賃借人に退去を求めることができる3つの事由についてご紹介したいと思います。

 

 

契約の更新拒絶(又は解約の申入れ)


一般的な賃貸借契約書には、賃貸人は正当な事由がある場合には6か月前(又は1年前)の予告をもって本契約の解約を申し入れることができる旨定められていることが多いと思います。

このように、契約の更新を拒絶する場合には、期間満了の6か月から1年前に更新拒絶の通知をしなければなりません。

さらに、借地借家法では、更新の拒絶又は解約の申入れについて、「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」とされています(借地借家法28条)。

つまり、賃貸借契約の更新を賃貸人が拒絶する場合には、基本的に期間満了前6か月に通知しなければならず、かつ更新拒絶が認められるための正当事由が必要となります。

正当事由があると認められるためには、賃貸人及び賃借人それぞれの建物の必要性、賃貸期間、老朽化の有無、立退料など総合的に考慮されます。

 

債務不履行解除 

更新の拒絶以外にも、契約を解除して賃借人に退去してもらえるケースがあります。 

ただ、この場合、賃借人側に賃料の不払いや無断転貸など契約上の義務違反行為がなければなりません。しかも、例えば賃借人に賃料不払いがあり、契約書にも1ヶ月の賃料滞納により解除できるという文言があったとしても、1ヶ月分では契約解除は認められません(3か月が目安となります。)。賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊された程度でなければ細工不履行による解除は裁判所では認められません。 

また訴訟で建物明渡請求をした場合、執行までする可能性が高く、イメージしている賃借人の退去には1年程度はかかるでしょう。 

 

合意解約

合意解約は、実質的に更新拒絶と近いのですが、賃貸人と賃借人で条件面が合えば契約途中でも合意で解除し、賃借人に退去してもらうことは可能です。

ただ、合意内容については柔軟なところがありますので、例えば、退去までの期間を設けたり、立退料を支払う必要が発生したり、残置物は賃貸人の負担となったり、様々考えられます。

 

 

 

まとめ 

以上のように、賃貸人が賃借人に退去してもらうには、賃借人側に帰責事由(契約上の義務違反)がある場合を除いて、困難と言わざるを得ません。退去してもらう理由が、賃貸物件を居住物件として利用するなど専ら賃貸人の自己都合であれば尚更です。 

ただ、全てのケースにあてはまるものではなく、ケースバイケースで判断することになりますので、賃借人との関係でお困りの方はお気軽にご相談ください。