第三者からの情報取得手続を利用して、養育費の取立てがより簡単に!


Case 

2年前に協議離婚をした元夫と離婚時に子どもの養育費として月5万円と決めました。 

しかし、数か月前から養育費の未払いが続き、元夫に連絡しようとしてもつながらず、職場にも連絡をしてみたのですが、既に退職していて、音信不通となってしまいました。 

何とか未払分を回収したく、今後についても養育費をきちんと支払ってもらうようにしてもらいたいです。 

 

養育費の未払いは多くの相談が寄せられていますが、今回の事例で言いますと、元夫の所在や現職が不明ということで、改正民事執行法によって新設された第三者からの情報取得手続を経て、現職から支払われる給与を差し押さえることで、未払分の回収を図ることができます。 

しかしながら、最終的に未払分を回収するためには、いくつかの手続と注意点があります。 

 第三者からの情報取得手続とは


令和2年改正の民事執行法により、裁判所を通じて、金融機関や市役所等の第三者から口座などの情報を取得できる手続が新設されました。

 

第三者から得られる情報の種類 

この手続により、得られる情報としては、①不動産、②給与(勤務先)、③預貯金、④上場株式等の4種類です。今回の事例では、②給与(勤務先)、③預貯金を検討することになると思いますので、これらを中心に第三者からの情報取得の手続について簡単にではありますが、ご紹介します。 

 

 手続のために必要な書類

どの情報を取得しようにも、共通して必要なのが、債務名義です。

債務名義とは、あえて定義すれば、私法上の請求権の存在と範囲を公証した文書であって、法律による強制執行が認められているものをいいます。逆に言いますと、この債務名義がないと強制執行することができないのです。

具体的に挙げれば、裁判所(又は裁判所書記官)が作成した確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書など確定判決と同一の効力を有するもの、(仮執行宣言付)支払督促、公証人が作成した強制執行認諾文言付公正証書が代表的なものになります(民事執行法22条)。

つまり、債務名義を取得するためには、裁判所か公証役場で所定の手続をとる必要があるのです。

その他手続に必要な書類や費用はありますが、まずはお手元の書面が債務名義にあたるか確認しましょう。わからなければ弁護士に相談しましょう。 

 

 

 今回の事例に沿った手続の流れ

債務名義があるかチェック

冒頭の事例ですと、協議離婚をした際、養育費の取り決めがされたということですが、事例の限りで言いますと、債務名義にあたる書面はありません。

したがいまして、この時点では差押えどころか、第三者からの情報取得手続を申し立てることもできません。

まずは元夫に対し裁判(又は調停)をするか、元夫を連れて公証役場で強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)を作成するかして、債務名義を取得しなければなりません。

 

裁判所に申し立てる

さて、冒頭の事例で、強制執行認諾文言付公正証書が作成されていた場合、それは債務名義にあたりますので、勤務先又は預貯金口座に関する情報を第三者から得るために、第三者からの情報取得手続を裁判所に申し立てます。

ここで注意が必要なのが、求める情報が勤務先情報である場合、情報取得手続をする前に、財産開示手続という別の手続を先にしなければなりません。

また本事例ではすでにクリアしていますが、勤務先情報の取得手続の申立てができるのは養育費や人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の執行力のある債務名義正本を有する債権者に限られます。

 

第三者からの情報取得

申立後、裁判所が申立てが適法と判断された場合、裁判所から第三者(勤務先情報であれば市町村など、預貯金情報であれば金融機関)に対し、情報提供命令が発令されます。

これを受けた第三者は、裁判所に対して情報提供をし、裁判所から申立人に通知されます(第三者から直接申立人に通知されることもあります。)。

この手続では、預貯金情報と勤務先情報とでは、若干の流れの違いがあります。預貯金情報では、債務者(冒頭の事例だと元夫)に知らせる前に情報提供がなされます(東京地裁の場合、債務者には裁判所への通知後1ヶ月程度で知らされます。)。これは事前に債務者に知らせてしまうと財産隠しをされてしまう可能性があるためです。他方、勤務先情報では、債務者(元夫)に情報提供命令書を送達することとされ、債務者に不服申し立ての機会を保障しています(民事執行法205条5項など)。仮に債務者が転居してしまっている場合で転居先が不明であっても、可能な限りの調査を尽くせば公示送達(裁判所の掲示板に2週間掲示、それを経過すれば送達の効力が生じるもの)が認められます。  

 

養育費の取立て

いよいよ強制執行で養育費を回収することになりますが、一般的に、強制執行には不動産、動産、債権などに対して差押えをしますが、養育費の取立ての場合は預貯金や給与などの債権に対して差押えをして回収する手続がよく利用されます。 
 

必要書類の準備 

第三者からの情報取得手続と同様、債務名義はもちろん必要です(強制執行とは別の手続ですので、情報取得手続が終わり次第又は事前に還付申請をします。)。その他にも送達証明書や確定証明書、目録など申立てに必要な書類は多数あり、複雑でもあるので、迅速な回収のためにも弁護士のサポートを受ける方が有益です。 
 

裁判所への申立てと養育費の取立て 

必要書類を揃えたら、裁判所に強制執行を申し立てます。申立てが認められると、裁判所が差押命令が発令され、債務者(元夫)と第三債務者(預貯金であれば金融機関、給与であれば勤務先)に送達されます。送達後、第三債務者は債務者に支払うことが禁止されるため、口座からの引き出しや給与の受取りができなくなります。 
差押えが完了すると、申立人には送達通知書と第三債務者が作成した陳述書が送付され、債務者(元夫)の口座残高がいくらあるか、勤務先から給与がいくら支払われるかを知ることができます。 
申立人は、送達通知書を受け取ってから1週間経過後に取立てをすることができます。 
取立てによって未払の養育費全額を回収することができた場合、一部しか回収できずなお未払の養育費がある場合は取立届を裁判所に提出します。 
未払いがある以上、そして債務者が転職しない限り、差押えは継続されます。仮に転職した場合、転職先に対して別に強制執行を申し立てます。 

 

 

今後についても養育費をきちんと支払ってもらうようにするためには?

さて、未払分の養育費を全額回収できたものの、今後も未払いが発生するのではないかとご不安になるかもしれません。
そのような時は、今度こそ強制執行認諾文言付公正証書を作成しましょう。

  

 

養育費の取立ては弁護士にご相談を


養育費の未払いがあった場合に、第三者からの情報取得手続を利用して、また強制執行をして、全額回収する場合の一般的な流れについてご紹介しました。

特に強制執行の手続はとても複雑であり、面倒な手続です。さらに慎重さやスピードが求められる手続でもあります。こうした強制執行の手続に頼らなくても、相手(元夫)が話し合いの場で素直に支払ってくれれば問題ないのですが、このようなケースは正直稀といえるでしょう。むしろ当事者同士での話し合いで無理やり支払わせようとすると、あなた自身が不法行為に基づく損害賠償請求を受けたり、恐喝罪(刑法249条)に問われる可能性もあります。

自力救済の禁止にあたらないためには、自分で取立てが難しそうであれば、弁護士にサポートを受けることをお勧めします。弁護士に一任することで、元夫が連絡してきても、弁護士に任せることができ、精神的負担の軽減にもつながります。

こうした養育費に関するご相談を多く受けており、共に寄り添いながら解決に導いた実績がございます。養育費を含む離婚・男女問題でお悩みの方はお気軽にご相談下さい。