離婚が認められる法定事由とは?
離婚をしたいと思った際、その理由については問われません。単に性格が合わない、価値観が合わない、生活費を渡してくれない、家庭を省みない、数年前から行方知らず、不倫をされた、などなど、夫婦の数だけ、離婚理由はあるでしょう。
いかなる理由であっても、協議上の離婚はすることができます。また法律上、離婚できる事由が挙げられており、裁判手続となった場合はこの離婚事由が重要となります。
本コラムでは、法で認められている離婚事由から離婚に関するよくある相談事例についてご紹介したいと思います。
法定離婚事由
民法770条では、夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができるとされています。この「次に掲げる場合」というのが法定離婚事由です。
では、その法定離婚事由は、
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- 婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
とされています。
不貞行為
不貞行為という言葉自体は聞き慣れない言葉ではないと思います。夫婦は、原則として同居し、互いに協力し扶助しなければならず(民法752条)、これには互いの貞操を守る義務も含まれます。つまり、不貞行為とは、この貞操を守る義務に違反する行為であって、具体的には、一時的であっても、継続的であっても、配偶者以外の者と自由意思の下で性的関係を持つことを言います。
ここでのポイントは自由意思です。強要されたというような場合は、離婚問題ではなく、不同意わいせつ罪(刑法176条)や不同意性交等罪(刑法177条)の問題になり得ますので、警察に相談することをお勧めします。
少し横道にそれましたが、不貞行為について、最近の判例(東京地判令和5年1月13日)では、「端的には配偶者以外の者と性交渉又はこれに類似する行為を行うことであるが、これに限らず、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為と解するのが相当であって、不貞行為に該当すると主張する各具体的行為について、その態様、内容、経緯等に照らして、社会的に許容される範囲を逸脱し、上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から、不貞行為に該当するか否かを判断するのが相当である。」としたものがあります。
つまり、不貞行為の具体例で言えば、性行為はもちろん、定期的に不倫相手と長時間二人っきりでホテルに滞在もあります。
ただし、過去の裁判例(東京地判令和3年2月16日)では、必ずしも性行為の存在が不可欠とはいえない、としており、不貞行為自体について、その内容等が社会的に許容される範囲を逸脱するのか、また利益等を侵害するのか、そして、夫婦の一方の配偶者による不貞行為が、夫婦の婚姻関係を破綻させたかどうかはケースバイケースであり、ポイントとなります。
悪意の遺棄
ダークファンタジーアニメのような呼称ですが、悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに、夫婦の同居・協力・扶助義務等に反する行為をいいます。
具体例としては、幅広く考えられますが、生活費を渡さない、家を出たまま長期間帰ってこない(単身赴任は除く)、配偶者が関係修復を望んでいることを知りながら一方的に別居する、育児の放棄、働けるのに働かない(病気などの事情は除く)、などがあります。
無視は悪意の遺棄にあたるのか
ここで無視は悪意の遺棄にあたるでしょうか。正直なところ、これはかなり難しく慎重な判断が必要となります。
というのも、単なる会話に対して無視されただけでは悪意の遺棄には該当し得ないと思います。少なくともここで悪意の遺棄が問題になっているということは、夫婦の間で離婚の話が出ているということです。
つまり、例えば、夫から妻に関係修復を希望する旨を再三連絡したにもかかわらず、妻がこれに一切反応しない、行動を示さないというような場合は、悪意の遺棄として認められる事情にはなるでしょう(直接的に悪意の遺棄があったとは言い難いです。)
そうすると、無視は悪意の遺棄があったかどうかを総合的に検討する上での一つの考慮要素にはなり得るのであって、無視されたからといって直ちに悪意の遺棄があったとはいえないでしょう。
3年以上の生死不明
ケースとしてはあまり見ませんが、「生死」不明であるので、生きていることは知っているということであれば当てはまりません。3年間何も行動を起こしていないと離婚事由としては認められにくく、例えば警察に捜索願を出しているとか、自分で考えられる方法で捜索したものの奏功しなかった、という事実を証明する必要があるでしょう。
もっとも、3年未満であっても、悪意の遺棄を理由に離婚を請求することはできます。
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
配偶者が回復する見込みのない強度の精神病に罹ってしまうと、共同生活を送ることは苦痛と考えてしまう人もいるでしょう。そのため、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないときには法定離婚事由として裁判上の離婚請求をすることができます。
回復する見込みのない不治の精神病であるかは、もちろん医学的な診断書に基づくことになりますが、診断書があれば必ず離婚請求が認められるとは限りません。
つまり、強度の精神病にある配偶者が、離婚した後も療養生活を送れるか、結果的に見捨てられたことにならないかを裁判所は判断する上で重要視します。
もっとも、この事由にあてはまらなくても(不治ではない、他の病気)、次にご紹介する婚姻を継続し難い重大な事由を理由に離婚請求をすることができます。
婚姻を継続し難い重大な事由
かなり抽象的な事由ですが、例えば、性格の不一致、DV、セックスレス、配偶者親族との不和、宗教活動、犯罪行為、金銭問題などがあります。
この事由についても、基本的に夫婦関係が事実上破綻していると裁判所に認められた場合には離婚が成立します。
事実上破綻しているということなので、婚姻関係の修復が可能性すら見込めない状況である必要があります。そのため、上記の例一つだけでは婚姻を継続し難い重大な事由があるとは言えず、様々な周辺事情を考慮して、裁判所は判断します。
慰謝料請求もできる可能性がある
離婚事由やケースによっては、法定離婚事由の原因を作った有責配偶者に対し、慰謝料を請求することができます。
詳しくは離婚を相談された際に、併せて相談すると良いでしょう。
最後に
夫婦間のことは本来夫婦にしかわからないことばかりです。
法定離婚事由にあてはまるようなことがあり、離婚請求をしたいとお考えの方は、これらを証明していかなければなりません。自分にとっては大事であっても、第三者など客観的に見れば離婚事由にあてはまらず、離婚請求は認められないというケースも多くあります。
離婚の意思が固いような場合は、一度弁護士に相談することをお勧めします。
ケースによっては、裁判に至らずとも代理人として協議(話し合い)で離婚を成立させることもできますし、最大限サポートすることもできます。