精神保健福祉法上の3つの入院形態について
精神保護福祉法とは
正しくは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律といい、障害者基本法の理念にのっとり、精神障害者の権利の擁護を図りつつ、その医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律と相まってその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とされています(精神保護福祉法1条)。
簡単に言いますと、精神障害者に対して医療や保護その他必要な援助を行い、精神障害者の福祉の増進と国民の精神保健の向上を図りましょう、ということです。
以上のような目的から、精神保護福祉法では、統合失調症や薬物依存症、知的障害その他精神疾患がある人(法5条1項)に対して、様々な入院形態に関する規定が設けられています。
今回は、法が規定する入院形態から、退院請求などについてもご紹介したいと思います。
3つの入院形態
精神保健福祉法で定められた精神障害者に対する入院形態には、大きく分けて3つあります。まず精神障害者自らが入院に同意する「任意入院」、家族などの人の同意を得てする「医療保護入院」、そして、都道府県知事の権限に基づく「強制入院」です。
任意入院
任意入院は、患者が自分自身の疾患に関することをきちんと理解・判断することができ、また治療の必要性があることを理解して同意できる場合に採られる措置です。
そのため、任意入院をする際は、精神科病院の管理者は、患者に対し、退院等請求に関することなどを書面で知らせ、また患者から任意入院することを同意する旨の書面を受け取らなければなりません(法21条1項)。
そして、任意入院者は退院を申し出たときは、指定による診察の結果により入院を継続する必要があると認めた場合でない限り、退院することができます(法21条2項及び3項)。
仮に、入院継続の必要あると判断された場合でも、72時間を超えての入院継続はされませんが(法21条3項)、入院形態が変更になることもあります。
入院継続の必要があるとされるかについては、診察の結果、幻覚妄想状態、精神運動興奮状態、昏迷状態、抑うつ状態、認知症状態、統合失調症等残遺状態などといった状態にあるかどうかで判断されます。
整理しますと、任意入院の対象となるのは、入院を必要とする精神患者で、入院することについて精神患者本人の同意がある者になります。また任意入院の要件については、同意があれば入院手続にすることができ、精神保健指定医の診察は必要とされません。
医療保護入院
医療保護入院は、患者本人の同意がなくても、医師が必要と判断し、本人以外の同意があれば6月という範囲内で入院措置をとることができます(法33条1項)。これを医療保護入院と言います。
本人以外の同意というのは、精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者といった身近な存在から、後見人や保佐人も含まれます(法5条2項)。ちなみに、患者本人に家族等がいない場合は、居住地の市区町村長が同意することができます(法33条2項)。
医療保護入院の対象となる者は、自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがない者で、任意入院をする状態にない者です。いわば、任意入院と次に紹介する都道府県知事による入院措置の中間的な位置づけになります。医療保護入院をするためには、精神保健指定医等の診察と家族等の同意が必要であり、これが要件となります。
また急速を要し、家族等の同意を得ることができない場合には、応急入院の措置が採られることがあります(法33条の6)。ただし、応急入院は72時間に限って入院させることができるので、72時間経過後は、その他の入院措置に移行することになります。
医療保護入院の流れについて、簡単にご紹介しますと、自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがない者で、任意入院をする状態にない者であった場合、指定医による診察と家族等又は市区町村長の同意を経て、医療保護入院となります。入院後は、精神科病院の管理者の判断で退院できることもありますが、退院又は処遇改善請求などをし、精神医療審査会における審査によって退院できることもあります(継続の判断もあり得ます。)。退院後は、通院をするか、同意すれば任意入院することもあり得ます。
都道府県知事による入院措置
本人以外の同意によって入院措置となるケースには、家族等の同意以外にもあります。
都道府県知事は、指定医による診察の結果、精神障害者であり、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、精神科病院又は指定病院に入院させることができます(法29条1項)。これを強制入院とか、措置入院と言います。
都道府県知事による入院措置の対象となるのは、自傷他害のおそれがあると認められる者で、精神保健指定医2名の診断結果が一致していないと、この措置を採ることができません。
都道府県知事による入院措置の流れについては、警察官や保護観察所長、精神科病院の管理者などから通報があった、自傷他害のおそれがある者は、指定医による診察を経て、都道府県知事の決定により措置入院となります。退院するためには、都道府県知事の措置解除の決定が必要となりますが、基本的には自傷他害のおそれがなくなったこと(法29条の4)や症状が消退した届出(法29条の5)、定期報告又は退院等請求からの精神医療審査会における審査を経る必要があります。その後は、通院となることもあれば、任意入院又は医療保護入院、あるいは措置入院が継続となることもあります。
退院等請求
精神科病院に入院中の者又はその家族等は、都道県知事に対し、その者を退院させ、又は精神科病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができます(法38条の4)。
退院等の請求後は、審査会で審査を経る流れになりますので、請求直後に退院できるわけではありません。また請求書の記載は、請求の趣旨や理由を記載することが多く、退院等を求める理由を法的に記載しなければなりません。
そのため、もし退院等の請求をお考えであれば、弁護士に相談することも選択できます。なお、精神病院の管理者は入院患者の行動を制限することができますが、例外規定があり、弁護士との連絡については制限されません(法36条2項)。