介護施設内での転倒事故と施設の安全配慮義務 

 

介護施設内で発生する事故のうち、最も多いと言われているのが高齢者による転倒事故です。

高齢者自身はもちろんのこと、施設側にも、いつどこで、どんな状況で転倒するかわからないため、常に注意を払わなければなりません。

これまでの多くの裁判例では、介護施設内での転倒事故につき、骨折や死亡など重大な事故になってしまった場合は、施設側の過失を認める傾向にあり、その責任があるとされています。

 

 

 

介護施設に安全配慮義務があるのか

介護施設側に転倒事故につき責任があるとされた場合に、全責任を負わなければならないのでしょうか。

介護施設を運営する事業者が、損害賠償責任を負うのはその事業者に安全配慮義務があると認められることが必要です。

まずはこの安全配慮義務とは何なのか、どのような観点から安全配慮義務があると認められるのか、その程度などを見ていきましょう。

ちなみに、安全配慮義務は介護施設を利用するにあたっての契約書などに明記されている場合が多いですが、記載がなくても契約上に付随する義務として一般的に認められています。

 

 

安全配慮義務とは

一般的に、安全配慮義務といいますと、契約等の法律関係に基づく特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務をいいます。

この安全配慮義務は一般的、概括的なものですので、介護施設に即して言えば、高齢者など利用者に介護サービスを提供するにあたり、利用者の生命、身体、財産などの権利、利益を侵害しないよう、利用者の安全を確保し、これに対して配慮する信義則上の義務になります。

転倒に関して安全配慮義務をもう少し具体的に言いますと、サービスの提供を受ける利用者の心身の状態を的確に把握し、利用に伴う転倒事故を防止する安全配慮義務ということになります。


 

安全配慮義務の判断基準


予見可能性と結果回避義務

介護施設内での転倒事故にフォーカスして安全配慮義務とは何かをご紹介しましたが、介護施設側に安全配慮義務違反があると認められるためには、予見可能性と結果回避義務という2つの側面から判断されます。

転倒事故における予見可能性とは、転倒することが具体的に予見することが可能であったかであり、例えば、過去にその利用者は転倒したことがあったか、転倒した場所は他の利用者も転倒するところであったか、転倒した利用者の下肢の状態、主治医から転倒に対する注意がなされており、介護施設にもその旨の情報提供がなされていたなどを総合的に検討して、転倒の危険が具体的に認められれば予見可能性は認められるでしょう。

そして、こうした予見可能性を前提として、転倒を防止するための具体的な措置が介護施設内でとられていたかという結果回避義務も認められれば、介護施設側に安全配慮義務があったと認められることになります。


 

転倒事故が発生したら

介護施設側に安全配慮義務があるにもかかわらず、介護施設が怠り、転倒事故が発生した場合、介護施設側は安全配慮義務違反(債務不履行責任)によって生じた損害を賠償する責任を負います。

ただ、実務上、いきなり裁判ということにはなりません。まずは交渉にて解決を図ります。

交渉の場では、主に事実関係や安全配慮義務違反による損害賠償責任の有無、損害額について話し合いをし、最終的には示談書や合意書という形で解決に至ることは少なくありません。交渉であれば数ヶ月から長くても半年で、合意か不合意の結果は得られることになります。

そして、事実関係について争いがある場合や安全配慮義務を怠っていないという主張立証、その他損害額について当事者間で大きな乖離があるなど交渉で合意が得られなかったときは、訴訟による解決になります。訴訟での解決は1年程度はかかると思います。


 

介護事業トラブルは弁護士に相談を

介護施設内の転倒事故に関して、介護施設側の安全配慮義務をご紹介しましたが、どちらの立場であれ、証拠は重要な役割を果たします。

これら証拠に基づいて、事実関係から介護施設側に安全配慮義務はあったのかなかったのか、損害としてはいくら請求するのか、その損害額は適正なのか、などを見通すことができます。こうした見通しは専門的知識を要する場面ですので、早い段階で弁護士に相談することをお勧め致します。

私は、業務の一つに成年後見を扱っており、高齢者、介護施設、どちらの視点からでも共に解決できるよう寄り添いながら、介護事業トラブルをめぐるお困りごとに対応いたします。

介護事業トラブルでお悩みの方はお気軽に私江頭までご相談ください。