医師が説明してくれないときの法的対応
病院やクリニックで病気や治療をする際、一般的には、医師から病気の状態、どういった治療をしていくのか、副作用はあるのかなどの説明を受けると思います。
こうした説明は、もちろん医師に課される説明義務に基づくものであり、医師からの説明は患者にとっては非常に重要なことといえるでしょう。
しかし、患者からすれば、聞きたいことを聞けずに、また十分な説明がされないまま治療が進んでしまうことがあります。
説明義務に関連するトラブルは、医療・介護問題ではよくみられます。
今回は、医師が患者に説明しなければならない事項は何か、医師が説明義務を果たしていないとき患者はどのような対応をすべきかなどについて解説したいと思います。
医師が患者に説明すべきこと
説明義務とその法的根拠
説明義務とは、医師が患者に医療を提供するにあたり、患者に対して適切な説明を行い、その理解を得られるよう努めなければならないことをいいます(医師法1条の4第2項)。
医師の説明義務の法的根拠は、医師法では努力規定ですが、診療契約に基づく義務と解されています。診療契約は、民法上明文の規定はなく、準委任契約(民法656条など)と解されており、受任者である医師には報告義務があります(民法645条)。
説明義務の内容
医師がどのようなことを説明しなければならないのか、という内容については、厚生労働省が指針を示しています。
すなわち、医療従事者は、原則として、診療中の患者に対して、次に掲げる事項等について丁寧に説明しなければならない。
① 現在の症状及び診断病名
② 予後
③ 処置及び治療の方針
④ 処方する薬剤について、薬剤名、服用方法、後納及び特に注意を要する副作用
⑤ 代替的治療法がある場合には、その内容及び利害得失(患者が負担すべき費用が大きく異なる場合には、それぞれの場合の費用を含む)
⑥ 手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要(執刀者及び助手の氏名を含む)、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無
⑦ 治療目的以外に、臨床試験や研究などの他の目的も有する場合には、その旨及び目的の内容
これらの事項はあくまで一般的なものであって、患者の病状など事案によってはこれら全てを説明しなければならないものでもなく、逆にこれらに含まれない事項についても説明義務が生じることもあります。
医師の説明義務は、患者の自己決定権の実現を保障するためにあるものと解される面もありますので、患者側が適切な理解と判断ができるように、説明を尽くさなければなりません。
参考までに、判例(最判平成13年11月27日)は、「医師は、患者の疾患治療のために手術を実施するにあたっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断・実施予定の手術の内容・手術に付随する危険性・他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失・予後などについて説明すべき義務があると解される。」としています。
インフォームドコンセント
医師の説明義務を挙げるうえで、密接な関係をもつものとしてインフォームドコンセントがあります。
インフォームドコンセントとは、患者が自分の病状について十分な説明を受け、理解した上で、自主的に治療などの選択、同意、拒否することができるプロセスをいいます。
このことから原則として、医師による説明は患者本人に対してなされるべきですが、患者本人が自己決定権を行使することができない事情がある場合には、法定代理人や親権者などに説明する義務が生じます。
医師が説明してくれなかったときに発生する法的責任
患者に対して治療行為が行われた結果、患者にとって良くない結果が生じたというだけでは法的責任は生じません。
民事上の責任でいいますと、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任になります。
不法行為に基づく損害賠償請求
不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、まずは過失が必要となります(その他損害や因果関係も必要となります。)。
医師の過失、つまり説明義務を果たさなかったことについて、具体的にはどのような内容をどの程度説明されていればよいのでしょうか。
説明義務は、患者の自己決定権の前提となるものであることからすると、患者がどのような治療を選択するのかなど決定するにあたって必要と思われる内容の説明をすることになるでしょう。
そして、どの程度説明されているのかについては、現在の最高裁の考え方では、複数の治療法がある現代医療では、いずれの選択もあり得ることを前提に、「未確立の両方ではあっても、医師が説明義務を負うと解される場合があることも否定できない」としています(最判平成13年11月27日)。
債務不履行に基づく損害賠償請求
治療行為は診療契約(準委任契約)に基づくものであり、受任者の報告義務として説明義務を負っていると解されています。
そのため、医師の説明が不十分であった場合は、診療契約上の債務不履行として損害賠償請求することができます。
ただ、この場合の説明義務違反については、十分な説明がなされていれば患者はその治療を選択しなかったであろう、同意しなかったであろうという因果関係は認められず、結果、少額の認定になるケースがほとんどです。
医療問題は弁護士にご相談ください
説明義務違反を含む医療問題は、治療の時から患者に何が行われていたのかという事実調査から始まります。
この事実調査は、主にカルテや診療記録を基に行われますが、こうした医療記録は病院にあるもので、取り寄せたとしてもどこに問題点があるのか、なかなかわからないことがあります。
このようなときは弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士であれば、時に法的手続によって診療記録を取り寄せ、必要な証拠の収集を行います。
また実際に損害賠償請求が可能かといった見立てもすることができます。
医師の説明義務違反でお困りの方はお気軽にご相談ください。