「特定少年」に係る少年事件の特例について


令和3年(2021年)5月21日、少年法が改正され、それまで18歳19歳の少年も少年法上は「少年」とされていましたが、今回の改正によって、18歳19歳の少年は「特定少年」という新たな概念によって区別されることになりました。

また特定少年特有の手続上に関する特例も設けられ、令和3年の少年法改正は、この点が最も大きな変更点であったと思います。

なぜ「特定少年」の概念が生まれたのか、改正の理由とは? 

従来の少年法では、適用されるのは20歳未満の男女でした。 

しかし、民法が改正され、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い、少年法も、18歳19歳の男女を民法と同じく成人とするのか、それとも従来通り20歳未満の男女を適用対象とするのか、その扱いについては議論となりました。 

 

民法との整合性を考えれば少年法も適用される年齢を18歳未満の男女とし、18歳19歳の者が罪を犯しても少年法も民法も成人となるので、通常の刑事事件(逮捕・勾留から起訴不起訴の処分)の手続で行った方が自然と言えるでしょう。 

 

しかし、18歳19歳の男女は、まだまだ若いことから教育や矯正などによって更生できる道は大いにあります。そう考えるならば、民法と整合する必要はないように思われます。 

 

そこで、少年法は、従来通り、「少年」を20歳に満たない者とした上で(少年法2条1項)、18歳19歳の男女を「特定少年」と位置付け、引き続き少年法の適用を受けるものの、18歳未満の男女と20歳以上の成人とは異なる扱いとしました。 

 

変わらない点 

特定少年であっても、変わらない点についてご説明します。 

まず、全ての事件が家庭裁判所に送致される全件送致主義がとられます(少年法42条)。 

家裁に送致された後も、他の少年事件と同様、逆送でない限り、観護措置や調査官調査、試験観察は行われます。 

親権者の取扱いですが、民法上は18歳19歳は成人のため親権者は存在しませんが、少年上は20歳未満の者は少年とされますので(少年法2条1項)、保護者に対する措置があります。 


特定少年の特例

さて、特定少年であっても全件送致主義は変わりませんが、特定少年については家庭裁判所に送致された後についてはさまざまな特例が設けられています。

 

検察官送致に関する特例(少年法62条)

通常、少年事件の多くが家庭裁判所に送致された後、保護処分(保護観察、少年院送致、児童自立支援施設送致)を受けることになります。しかし、家庭裁判所がこうした保護処分よりも刑事罰を受けさせるべきだと判断した場合は、検察官に送致されることになります。これが逆送といわれる手続です(少年法20条)。逆送された後は、成人と同じ刑事手続を受けることになります。

犯罪によっては、事件を原則として逆送しなければならない場合があります。少年法では、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては、逆送しなければならないとしています(少年法20条2項)。ここでいう故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件というのは、具体的に言えば、殺人罪(刑法199条)、強盗殺人罪(刑法240条)、傷害致死罪(刑法205条)などがあります。

さて、今回の少年法改正により、特定少年に対する原則逆送事件について特例があります。

結論から言いますと、原則対象となる事件の範囲が拡大されました。

つまり、これまでは「(犯行時)16歳以上の少年」が、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に加えて、「(犯行時)18歳19歳の少年が」、「死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮の罪の事件」も原則として逆送しなければならないことになりました(少年法62条2項本文)。

これによって新たに追加された「死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮の罪の事件」には、例えば、強盗罪、不同意性交等罪、非現住建造物放火罪などがあります。

ただし、あくまで原則ですので、家庭裁判所の調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは逆送措置をとる必要がありません(少年法62条2項ただし書)。

つまり、犯情や要保護性に関する事実などを総合考慮して判断されます。

 

  • 少年法62条

1 家庭裁判所は、特定少年に係る事件については、第20条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもって、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの

二 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であって、その罪を犯すとき特定少年に係るもの

 

ちなみに、逆送されて刑事裁判となった場合であっても、裁判所は、事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、事件を家庭裁判所に移送しなければならないという、いわゆる55条決定がなされることもあります(少年法55条)。

 

保護処分についての特例(少年法64条)

少年事件の流れでも見ましたように、少年に対して保護処分を決める際には、家庭裁判所は少年の性格や周囲の環境を考慮することになり、柔軟な対応と運用がされています。

「特定少年」に関しては、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、決定をもって、6か月又は2年の保護観察にするか、3年の範囲内で少年院に送致するかの保護処分をしなければならないとされています(少年法64条1項)。

今後は「犯罪の軽重を考慮して」処分が下されることになりますので、犯情の重い罪を犯してしまった特定少年は、少年院送致となる可能性は十分にあります。

 

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刑事事件の特例(少年法67条)

刑罰の言渡しについても特定少年に対する特例があります。

逆送されて刑事裁判を受ける特定少年以外の少年に対しては、更生しやく、また更生することを期待して、法律上の範囲内で、例えば懲役〇年以上〇年以下というように、不定期に刑を言い渡すことになります(これを不定期刑と言います。)。

一方で、特定少年に対しては、不定期刑は適用されず、成人と同じように懲役1年などのように明確な期間を示されて刑の言渡しがされることになります(少年法67条)。

 

記事等掲載禁止の特例(少年法68条)

少年法では、家庭裁判所の審判に付された少年や少年のときに犯した罪により公訴を提起された者について、氏名、年齢、職業、住所、容ぼう等によって、その者が事件当事者であると推知ないし特定されるような記事や写真を出版物に掲載することは禁止されています(少年法61条)。

つまり、罪を犯した時点で、「少年」である(又はあった)者は、逆送されて成人と同じ刑事裁判を受けることになったとしても、特定されるような記事や写真の掲載はされません。

しかし、「特定少年」の場合、逆送されて起訴された場合(略式起訴は除く)は、少年法61条が規定する報道規制は解除され(少年法68条)、実名や顔写真が載った報道ができるようになりました。

 

ぐ犯少年の適用除外

改正前の少年法では、ぐ犯少年(将来的に刑法に触れる行為をする可能性のある少年であって、少年法が規定する一定の事由に当てはまる者)に対しては、少年法によって保護されます。

しかし、改正法によって、年齢が18歳・19歳の特定少年については、ぐ犯少年の場合は審判に付されなくなりました(少年法65条1項)。つまり、特定少年は、成人と同じような刑事手続をとることができるということになります。

最後に 

少年事件においては、特に少年の更生を主たる目的とするところがありますので、捜査段階での迅速な弁護活動、家庭裁判所に送致後の付添人活動など、弁護士による活動は必要不可欠となります。 

もちろん家庭環境などの面ではご両親の協力も必要となりますが、親ではない大人である弁護士が少年に寄り添うことが必要となることがあります。 

少年事件の流れは複雑で、今後どのような手続になるのか、どういう処分が見込まれるのか、など少年事件はわからないことが多いと思います。 

私は、これまで多くの少年事件を扱い、多くの少年・少女と寄り添って、迅速・適切な解決を図ってきました。お子さんが逮捕されたという連絡を受けた場合は、お早めにまずはご相談ください。