父母の離婚後等の子の養育に関する改正民法等①~親の責務・親権


令和6年5月31日、民法等の一部を改正する法律が成立しました。

今回の民法改正の大きなポイントは、新たに法定養育費の制度が民法に新設されたことです。

この法律は、一部を除き、公布日である令和6年5月24日から2年を超えない範囲で施行される予定です。

今回は、父母の離婚後における子の養育に関する改正内容を中心に、その内容などを紹介したいと思います。

改正の背景

今回、親の責務、親権、養育費の支払確保、面会交流、財産分与、養子縁組といった子の養育に関する様々なルールなどの見直しがされています。

こうした改正の背景には、父母の離婚が子に与える影響や、子の養育の在り方が多様化しつつあるといった事情や、養育費がきちんと支払われない、面会交流が取り決め通りになされないといった問題も背景としてはあります。これらは、いずれも離婚後も、適切な形や方法で子を養育する責任を果たすことが必要となっています。

こうした問題を受けて、令和3年から審議が続き、令和6年5月に改正法が成立・交付されました。 

改正法の概要

背景でも述べましたが、今回の改正は次の内容に分けることができます。前提として大事なのは、父母が離婚した後も子どもの利益を確保することを目的としていることです。

  • 親の責務等に関する規律の新設
  • 親権等に関する規律の見直し
  • 養育費の履行確保に向けた見直し
  • 親子交流の実現に向けた見直し
  • その他財産分与、養子縁組に関する見直し

 

親の責務等に関する規律の新設

今回の法改正により、親の責務等として次の規定が新設されました。

 

第812条の12
父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使または義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。

 

また、改正前(現行法)では、親権について、「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」とありますが、今回の改正により、次のような内容となりました。

 

第818条第1項

 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。

 

親の責務としては、親権者であることや婚姻関係の有無にかかわらず、子の心身の健全な発達を図るため、子の意見に耳を傾けるなど子の人格を尊重し、養育する義務を負います。

また親子間だけでなく、父母間でも、子の利益のために、互いに人格を尊重し協力しなければなりません。そのため、例えば、父母の一方から他方への脅迫行為や誹謗中傷行為、別居している親権者による日常的な監護への不当な干渉、特段の理由や断りもなく子を転居させること、取り決められた面会交流を理由なく実施しない又は非協力的な言動は父母間の人格尊重協力義務に反することになります。

そして、子どもの利益を確保することを目的に今回の法改正がなされたため、親権は子の利益のために行使しなければならないという改正がなされています。

 

親権等に関する規律の見直し


親権者の取り決めに関する規定

これまでの民法では、離婚後の親権について、父母の一方のみを親権者と定めなければなりませんでした。

しかし、今回の法改正により、離婚後の親権を共同親権とすることも、従前通り、単独とすることもできるようになり、より柔軟な選択ができるようになりました。

まずは現行法を見てみると、「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。」とされています(民法819条1項)。

この条文のうち、「一方」を「双方又は一方」に、「定めなければならない。」を「定める。」に、それぞれ改正されます。つまり、改正後の民法819条1項は、「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。」となります。その他819条2項から6項についても改正や追加がなされ、改正後の819条全体の条文は次のようになります(太字が改正箇所になります。)。

第819条

 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める

2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。

3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。

5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。

6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。

7 裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。

一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき

二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき

8 第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。

 

改正後の条文は上記の通りですが、親権者の定め方については、まず協議離婚の場合は、父母の協議により、親権者を双方とするか、一方とするかを定めます。

協議が成立しない又は裁判上の離婚の場合は、家庭裁判所が、父母子それぞれの関係含め様々な事情を考慮して、子の利益を確保する観点から、親権者を定めます。ただし、共同親権の申出があっても、子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるときや暴力等によって共同親権が困難であるときは、単独親権となります。

 

親権の行使方法

親権者を誰に、どのように定めるかは、上記の通りです。次に、親権者が親権という権利をどのように行使できるのか、についても改正により明記されました。

 

第824条の2

 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。

 一 その一方のみが親権者であるとき

 二 他の一方が親権を行うことができないとき

 三 子の利益のため急迫の事情があるとき

2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。

3 特定の事項に係る親権の行使(第1項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。

 

改正によって、824条の2第2項及び第3項が新設され、日常生活で生じる監護教育に関する行為は、共同親権であっても、単独で行使することができます。「日常生活で生じる監護教育に関する行為」や「急迫の事情」についてはケースバイケースで考える必要がありますが、例えば、服装、習い事、アルバイト、短期間での観光目的の旅行、子の心身に重大な影響を与えない範囲での医療行為の決断などは監護教育に関する行為に当たり、緊急入院や暴力等からの避難は急迫の事情といえるでしょう。一方で、進路や財産管理などは、日常生活で生じる監護教育に関する行為とはいえず、親権の権利行使のためには共同でする必要があります。

そして、共同で親権を行うべき事項について、親権者間で対立したときは、家庭裁判所に対し、その事項に関してのみ単独親権とする請求をすることができます。 

 

まとめ

ここまで、改正による親の責務等の新設、親権に関する規定についてご紹介しました。

親権者を定める方法や、親権の行使方法など細かく規定されています。

何か手続でご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。

次回は、養育費、面会交流、財産分与といった改正内容をご紹介します。

 

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