父母の離婚後等の子の養育に関する改正民法等②~養育費・面会交流・財産分与など
前回までは、親の責務から、親権について親権者の定め方、親権の行使方法などについてご紹介しました。今回は、父母の離婚後等の子の養育に関する改正民法等でも、養育費、面会交流、財産分与などについてご紹介したいと思います。
関連記事 父母の離婚後等の子の養育に関する改正民法等①~親の責務・親権
養育費の履行確保に向けた見直し
多くの方が悩まれている一つに、養育費がきちんと支払われないことがあると思います。
改正前では、養育費の取り決めがあったとしても、養育費の支払いが滞ったときに預金口座などの財産を差し押さえるためには、公正証書や調停証書などの債務名義が必要で、債務名義を得るためには公証役場や裁判所での手続が必要でした。
しかし、今回の改正により、養育費債権に先取特権という他の債権に優先する権利が付与されることになりましたので、債務名義がなくても差押えの手続ができるようになりました。ただし、改正法が施行された後に発生した養育費債権に限った話ですので、現状養育費でお困りであれば従前通り債務名義を得るところから始める必要がありますので、ご注意ください。
改正後の該当条文は、次の通りです。
第766条の3
父母が子の監護に関する費用の分担についての定めをすることなく競技場の離婚をした場合には、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うものは、他の一方に対し、離婚の日から、次に掲げる日のいずれか早い日までの間、毎月末に、その子の監護に要する費用の分担として、父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額の支払を請求することができる。ただし、当該他の一方は、支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができる。
一 父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日
二 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日
三 子が成年に達した日
なお、ここでいう「法務省令で定めるところにより算定した額」については今後定められる予定です。
親子交流の実現に向けた見直し
今回の改正では、親子交流について安心・安全な実現ができるよう新たな規律が整備されました。
試行的実施
現行法でも、面会交流の調停期間中に、家庭裁判所内で試験的に面会交流がなされることがあります。今回の法改正では、これをベースに、親子交流の試行的実施が規定されました。
具体的には、家庭裁判所は、交流の方法、交流をする日時及び場所、並びに家庭裁判所調査官その他の者の立会いその他の関与の有無を定め、子の心身に有害な影響を及ぼす言動を禁止すること、その他適当と認める条件を付した上で、親子交流の試行的実施を促すことができるとしています(改正後の家事事件手続法152条の3第2項)。
家庭裁判所によって親子交流の試行的実施が促されたとしても、当事者の事情等により実施されなかった場合もあります。その場合でも、家庭裁判所は、その結果の報告(実施しなかったときはその理由の説明)を求めることができます(改正後の家事事件手続法152条の3第3項)。
つまり、試行的実施をするにあたっては、まず家庭裁判所が子の心身の状況に照らしてそもそも試行的実施をするのが相当であるか、調査の必要性があるかなどを検討します。これを踏まえて、家庭裁判所は、実施条件や約束事を決め、試行的実施を促します。実際に実施された場合にはその結果の報告、実施されなかった場合はその理由、を明らかにしてもらい、父母とも共有します。そして、結果等を踏まえ、家庭裁判所は、調停の成立や審判の進行に役立てます。
今回、親子交流の試行的実施が規定されたのは、家庭裁判所による圧力ではなく、実施しなかった理由を家庭裁判所が主体となって明らかにしてもらうことで、その後の審理に役立てようという趣旨であることがポイントです。
婚姻中で別居の場面における親子交流
親子交流は、婚姻期間中であって別居中であるケースについての規定はありませんでした。これに対しても、今回の改正で次のような条文が規定されることになります。
第817条の13
第766条の場合のほか、子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求により、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、父又は母の請求により、前2項の規定による定めを変更することができる。
4 前2項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
5 前項の定めについての第2項又は第3項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあたっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
※第766条とは、離婚後の子の監護に関する事項についての規定です。
婚姻中別居による親子交流の場合であっても、子の利益を最優先にすることを前提として、父母の協議により、協議で成立しない場合には家庭裁判所の審判により、定めることになりました。
父母以外の親族と子との交流
改正前の民法では、父母以外の親族と子との交流に関する規定はありませんでした。しかし、実際に父母以外の親族と子が親子であるかのような関係も現代社会では多くあり、また裁判ケースとしても多くありました。このような場合は、柔軟な対応をしていたところ、今回の法改正で新設され、子の利益のため特に必要があるときは、家庭裁判所は、子が父母以外の親族と交流することができる旨を定めることができます。
第766条の2
家庭裁判所は、前条第2項又は第3項の場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときは、同条第1項に規定する子の監護について必要な事項として父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
2 前項の定めについての前条第2項又は第3項の規定による審判の請求は、次に掲げる者(第2号に掲げる者にあっては、その者と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がないときに限る。)がすることができる。
一 父母
二 父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)
※前条とは、第766条離婚後の子の監護に関する事項についての規定です。
原則として、父母以外の親族が子と交流を決めるのは父母によるところですが、他に適当な方法がないときは、父母以外の親族も家庭裁判所に交流の申立てをすることができます。
財産分与、養子縁組などに関する見直し
財産分与に関する規定の見直し
財産分与は、婚姻中に共に築いた財産を、離婚の際に分ける制度をいいますが、今回の改正におけるポイントは次の3つです。
- 請求期間の伸長
- 考慮すべき要素の明確化
- 裁判手続の利便性の向上
請求期間の伸長
改正前民法では、離婚の時から2年を経過したときは、財産分与の請求をすることができませんでした(改正前民法768条2項ただし書)。
今回の改正により、この「2年」が「5年」となり、離婚後5年を経過するまで請求することができるようになりました。
考慮すべき要素の明確化
改正前民法では、「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」とし(改正前民法768条3項)、考慮する具体的な事情については規定されていませんでした。
今回の改正により、各当事者の寄与の程度、婚姻期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、年齢、心身の状況、職業及び収入という財産分与の額を決めるに当たっての考慮要素が明記されました。このうち、寄与の程度については、原則として2分の1となります。改正後の768条3項の規定は次の通りです(下線箇所が改正箇所になります。)。
第768条3項
前項の場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。
裁判手続の利便性の向上
最後に、財産分与に関する裁判手続では、前提として、分与対象の財産や金額を明らかにする必要があり、一方当事者が非協力的な姿勢であるとなかなか裁判手続が進まないこともありました。
しかし、家事事件手続法も改正され、手続円滑化のため、家庭裁判所が当事者に対し財産情報の開示を命ずることができるようになりました。命令を受けた当事者が正当な理由なく開示しない、又は虚偽の情報を開示したときは、10万円以下の過料に処せられます。
家事事件手続法152条の2
2 家庭裁判所は、財産の分与に関する処分の審判事件において、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、当事者に対し、その財産の状況に関する情報を開示することを命ずることができる。
3 前2項の規定により情報の開示を命じられた当事者が、正当な理由なくその情報を開示せず、又は虚偽の情報を開示したときは、家庭裁判所は、10万円以下の過料に処する。
※第1項は略
関連記事 離婚と財産分与
養子縁組に関する規定の見直し
養子縁組に関する規定も整備され、養子縁組後の親権者について、養親がその子の親権者となり、実親は親権を失います。連れ子養子の場合は、再婚相手も親権者となり、実親が離婚の際に共同親権の定めをしていたとしても、他方の親権者は親権を失います。
また養子縁組の手続について、実父母の意見が対立していた場合についても、家庭裁判所が意見調整するための手続が新設されました。
その他規定の見直し
その他、夫婦間契約はいつでも取り消すことができましたが(改正前民法754条)、夫婦間の取り決めが守られない、公平性ではない、という批判から今回の改正により規定自体が削除されます。
また法定離婚事由の一つとして、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」がありましたが(改正前民法770条4号)、削除されました。
関連記事 離婚が認められる法定事由とは?
最後に
以上2回にわたって、家族法に関する民法等の改正についてご紹介しました。
改正により裁判実務でも多少の影響もあることながら、当事者となる皆様には大きな関心事だと思います。
親の責務、親権、養育費、面会交流、財産分与など家事事件に関してお悩み、困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。